赤ちゃんのうんち

<赤ちゃんのうんち>
保護者が持つ子どものうんちの心配は、「便の回数が多い、少ない」「排便時にうなっている」「綿棒浣腸はくせにならないか」「緑色の便が出た」と多岐にわたります。それぞれ心配にはなりますが、乳児期のうんちは正常のバリエーションが多く問題にならないものも多くあります。
I.赤ちゃんの正常排便のバリエーションを知る(図1)
多くの保護者は、健康な乳児では一日一回やや軟らかめの便が出るといったイメージを持っており、ここからずれると何か病気が隠れているのではないかと不安になります。しかし、乳児期の排便にはバリエーションが多くあり、疾患のサインかどうかの判断基準は、「きちんと体重が増えているか」と「出た便が硬くないか」です。排便回数ではありません。まず、母子手帳の乳児の身長・体重増加のページに正確な月・日齢と身長・体重をプロットして増加曲線を作成し、体重増加を判断しましょう。
 赤ちゃんの正常のうんちについてのリーフレットを作りました。このページからダウンロードできます。

①生理的な排便頻度の減少
健康な赤ちゃんは、母乳栄養の場合で生後1か月までは一日約4回、多いと8-9回排便します。人工栄養児ではこれより少なく一日平均1.3回程度1)ですが、これは主に腸内細菌叢の栄養となるオリゴ糖含有量の違いによります。母乳には短鎖ガラクトオリゴ糖:長鎖フルクトオリゴ糖が9:1組成で含有されているため、軟便になります。近年、組成は多少異なるものの人工乳にもオリゴ糖が添加され、人工栄養児の便もやや回数が増えて軟らかくなりました2)。
生後2か月を過ぎると排便回数は激減し、特に母乳栄養児では毎日出ないことも起こります。これは母乳栄養児の37.4%にみられ、出ないときは6日間も出ないことがありますが、便自体は軟らかく体重の増加にも問題はありません。3-4か月経つと再びほぼ毎日の排便に戻ります3)。原因は不明ですが、母乳が効率よく吸収され、便の産生が少ないためとも言われます。一部にこれを「母乳性便秘」と称して、果汁摂取や綿棒浣腸を勧めるものもありますが、これは母乳栄養児の生理的な現象であって便秘ではありません。児の健康に影響せず自然に軽快するものに対して治療は不要ですが、1週間以上排便のないときには他の疾患の否定のためにも一度は小児科を受診しましょう。

②乳児排便困難症
 生後9か月未満の児が10分以上いきんでいるものの便が出ない、あるいは出たとしても軟便であり、特別な基礎疾患のないものが乳児排便困難症(Infant dyschezia)です。排便時にいきんで腹圧をかけても肛門括約筋が協調して弛緩しないために排便ができないものですが、いずれ児はこの協調運動を習得して3-4週間で自然に改善します4)。これは生後1か月の児では3.9%にみられるものですが、体重の増え方や飲み方に問題がないこと、排出された便が軟らかいことが確認できれば、便秘ではなく将来的にも心配のいるものではないことを伝えます。綿棒浣腸を指導されることがありますが、肛門への刺激は発達中の脳にとっては侵害刺激となります。また、その繰り返しによって肛門刺激がないと排便できない癖をつけてしまう可能性もありますので避けたほうがよいでしょう4)。乳児排便困難症は問題のあるものではありませんが、直腸肛門の異常を否定する必要があり小児科に受診しましょう。

II.硬い便が出ているとき
出る便が硬く、排便困難を伴う時は便秘かもしれません。多くは基礎疾患のない機能性便秘ですが、特に乳児期発症のものについては基礎疾患をもつ可能性があり、赤信号(red flags:図2)に注意しておきます5)。
これらの赤信号がない場合には機能性便秘の可能性がありますが、便秘の診断項目(Rome IV 診断基準4)をアレンジしたもの:図2)を評価しましょう。この項目が1つ以上あれば受診を勧めますが、便秘は長期に放置されることで難治化することが知られていますので、すべての項目が該当しなくても硬い便では慎重に経過を見る必要があります。

III. 便秘のホームケア(水分摂取と食物繊維、牛乳除去5)、生活習慣、肛門の痛みについて)
 家庭では様々なことが行われます。当院の調査では、便秘で受診した児の123例中94例(76%)が食事内容に気を使っていました。その詳細は「水分を多くとる」「ヨーグルト、オリゴ糖などのプレ・プロバイオティクスをとる」「食物繊維をとる」「乳製品を多くとる」に大別されましたが、残念ながら根拠はやや弱く、それだけで便秘が充分に改善できるわけではありません。
 脱水状態では便秘になりやすいのですが、便秘の児に水分を多くとらせても便秘は改善しません。プロバイオティクスは腸内細菌叢を改善し、大腸pHを低下させて大腸の蠕動運動を活発化し便秘の改善につながる可能性があります。現在までにLGG,Lcr35,L.Reuteriの有効性が示されてはいますが、報告により菌量、菌種が一定していないため確たる結論には至っていません。便秘の児では食物繊維の摂取量が少なく、実際に食物繊維を多く摂取させて便秘が改善した報告もあります。しかし、多くの便秘の児は食物繊維の推奨量(年齢+5g/日)が摂取できません。乳製品をとらせる保護者も多いのですが、逆に牛乳を除去することで難治性便秘が劇的に改善したとの報告があります。牛乳アレルギーのある児では除去の有効性も期待されますが、家庭で自己判断することは危険です。
 便秘には、予防と早期治療も重要です。幼児~学童期の排便習慣について検討した報告6)では、起床時間が遅く朝の排便習慣が確立しないこと、朝食の米飯摂取と夕食時の副菜(野菜)摂取が少ないことが便秘につながりやすいことが示されています。乳児は本能的に苦みのある野菜を嫌うので、離乳期から粘り強く野菜に慣れさせる必要があります7)。また、幼児~学童期に早起きを習慣づけることも大切でしょう。
 排便時に痛みや出血をきたす児は要注意です。高齢者のように出血(痔)に対する局所治療は不要で、むしろ原因(便秘)に目を向けて早期の診断・維持治療を勧めます。便秘の悪循環、難治化は排便時の痛み・出血によって排便をがまんすることに始まります。

IV.乳幼児期の慢性下痢
2週間以上続く下痢を慢性下痢症としますが、発症時期によって病因が異なります。生後1か月未満に発症するものは重症で、遺伝的なものや吸収不良症候群が多く注意が必要です。1か月を過ぎると小児の機能性下痢症(トドラーの下痢)や胃腸炎後の吸収不良に伴う下痢症、食物アレルギーが関わるものが多くを占めてきます。いずれも身長・体重増加と血便の有無が受診の目安になります。
〇機能性下痢症
生後6か月から5歳までに多く、一日4回以上の慢性下痢が4週間以上続きますが、腹痛はなく栄養状態や体重増加も良好です。1~3歳児の6.4%にみられ、便は軟便~水様便になります。便中には粘液や未消化物がみられることも多く、保護者は栄養が摂取できていないのではと心配しますが、腸管通過速度が速く小腸運動が未成熟なことによると考えられています。脂肪摂取が少ない場合や果糖やソルビトールの多いフルーツジュース(リンゴ、ブドウなど)、清涼飲料水の摂取過剰が発症要因・増悪因子となりますので、これらの摂取を控えてもらいます4)。3-4週間で自然に治癒し特別な治療はいりませんが、保護者の不安は強いため、健康に害のあるものでないこと、成熟に伴って改善することを十分説明します。

参考文献)
1)den Hertog J,et al. The defecation pattern of healthy term infants up to the age of 3 months. Arch Dis Child Fetal Neonatal Ed 2012;97:F465-F470
2)Scholtems PAMJ, et al. Stool Characteristics of Infants Receiving Short-Chain Galacto-Oligosaccharides and Long-Chain Fructo-Oligosaccharides: A Review.World J Gastroenterol 2014;20:13446-13452
3) Courdent M, et al. Infrequent Stools in Exclusively Breastfed Infants.2014;9:442-445
4) Benninga MA,et al.Childhood Functional Gastrointestinal Disorders:Neonate/Toddler.Gastroenterology 2016;150:1443-1455
5) 日本小児栄養消化器肝臓学会、日本小児消化管機能研究会(編).小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン.初版.東京:診断と治療社,2013
6) 藤谷 朝実,他.3から9歳児における機能性便秘の頻度と生活時間・食習慣との関連.日児誌2016;120:860-868
7) Fewtrell M,et al. Complementary Feeding: A Position Paper by the European Society for Paediatric Gastroenterology, Hepatology, and Nutrition (ESPGHAN) Committee on Nutrition. JPGN 2017;64:119-132

図1 赤ちゃんの正常排便バリエーション PDF

図2 うんちが出にくいとき PDF

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