No.11 『卒乳』 もみんなちがってみんないい
母乳支援外来を開設して3年半になりますが、卒乳の相談が時々あります。お母さんの職場復帰、夜間の授乳が辛い、乳頭を噛んで痛い、離乳食が進まない、次の子の妊娠、周りの声などが主な理由ですが、今日はその中から3組の親子の「卒乳ドラマ」をご紹介してみたいと思います。
R君(4歳)の場合
お母さんが最初に相談にみえたのは、R君2歳のお誕生日を迎えた頃です。
夜間に何度もおっぱいをさがしにくるので、お母さんは寝不足で さらに「甘えん坊になるよ」という周りの声にも少し敏感になっていました。お母さんはR君に「おっぱいバイバイするよ」と説明して決行しましたが、数日後風邪をひいたR君、あっさり逆戻り。お母さんは悩んだ末「まーいいや、そのうち、ゆっくり」卒乳することに決めました。
2年が経過し、お母さん2度目の来院です。今度は卒乳後の乳房ケアの相談でした。R君の様子を伺うと、3歳半頃から夜間通して眠るようになり、最近では『お兄ちゃん』という言葉を自ら発し、また『筋肉』を意識して活発に遊んでいると、お母さんはニコニコして話してくれました。 おっぱいを欲しがるときは3秒だけの1・2・3『約束授乳』をし、気がつくと自然卒乳をしていたそうです。 まだ会ったことのないR君ですが、愛おしくなりました。
Kちゃん(2歳)の場合
Kちゃんが1歳1か月の時、お母さんが切羽詰まったように「今週の金曜日から断乳したい」と相談にみえました。妊娠判明と同時に産婦人科医より断乳を指示され、前回切迫早産で長期入院をしたこともあり、不安感を抱いていました。お母さんはご主人の協力のもと、希望通りに金曜日に決行しましたが、Kちゃんはかえって離れなくなり途中で断念してしまいました。妊娠経過は順調で、健診の結果やKちゃんの様子、お母さんの気持ちを伺いながら、その間もKちゃんに回数を減らしながら授乳を続けました。そしてお母さんは、「無理なくゆっくりやめていく」ことに決めました。
数カ月後、お母さんは元気な赤ちゃんを出産し、3ヶ月健診で再びお会いしました。お母さんの第一声は、『完全母乳です!上の子がずっと飲んでいたので、最初からよく出て育児が楽です。みんなに勧めて下さい』でした。
さてKちゃんですが、赤ちゃんが生まれたその日から、お母さんのおっぱいをスパッと弟くんに譲ったそうです。お見事ですね
Aちゃん(11ヶ月)の場合
Aちゃんは、2日前に突然歯肉が赤く腫れ、口内炎の治療を別のクリニックで受けていました。 お母さんはAちゃんがぐずるたびに、おっぱいを吸わせていたようで、乳頭亀裂は左右ともざっくり切れ、痛みが強く、安静が必要な状態でした。 落ち着くまで、補完食3回と搾母乳を与えることにしましたが、2日目にしこりができてしまいました。当初母乳継続を強く希望していたお母さんでしたが、Aちゃんの様子から、3食しっかり食べているのでこのタイミングで断乳をしてもよいのではないのかと、意向が変わってきました。お母さんの気持ちに葛藤があったことも伝わってきました。最終的にはご夫婦で相談して、外来でAちゃんにおっぱいバイバイすることが伝えられたのでした。
断乳・卒乳をする場合、乳頭・乳房トラブルを改善してから行うのが賢明です。今回は乳汁が抑制されるまで2か月近くかかりました。
その間、Aちゃんは少し体重が減りましたが、食欲もあり、歩きはじめた元気なAちゃんの成長を見守っていくことになりました。
このケースで印象的だったことは、母と子の「断乳・卒乳」に、しっかり向き合っているお父さんの姿がそこにあったことでした。
母と子の生活はみんなちがい、子どもの成長も個人差があります。
卒乳の時期もちがっていいのです。
十分に甘えの感情を満たし、乳児期の「食育」に繋げてくださいね。
Takako Furukawa (^0_0^)
「日本母乳の会」の書籍紹介
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