子どもの頭痛 Q&A

Q1.よく頭が痛くなります。検査が必要ですか?

子どもの慢性頭痛のうち副鼻腔炎や頭蓋内病変といった原因疾患のあるものはわずか3~4%にすぎません。ほとんどは片頭痛に代表される一次性頭痛です。しかし、以下の兆候があればCTやMRI検査をすることもあります。

【緊急検査が必要】

□今までに経験したことのない激しい頭痛

□頭蓋内圧亢進症状(頻回の嘔吐を伴う)

□進行する神経症状(失調、片麻庫など)

□意識消失または意識減損発作

【場合によっては検査が必要】

□最近発症した頭痛

□頭痛が重度や頻度を増すなど変化したとき

□後頭部痛

□頭痛のために睡眠中目が覚める

□朝の嘔吐を伴う頭痛

□大きな息をしたとき、からだの力がぬける(もやもや病)

 

Q2.頭痛の原因は?

子どもの慢性頭痛の主なものは片頭痛と緊張型頭痛でこの二者でほとんどを占めます。

図のように最も多くを占めるのは片頭痛です。6才以上の児で多いとされますが、3才で発症することもあります。痛む場所は前頭~側頭部(片側のことも両側のことも)で、「脈打つ」といわれるようにズキンズキンとした拍動性の痛みが特徴です。

成人に比べて持続時間は短く、2~72時間といわれます。しかし、痛みの程度は成人同様に強く、テレビやゲームもできないくらいの痛みです。

また、歩いたり階段を上ったりすることで痛みが増強し、悪心・嘔吐、光過敏、音過敏のうち一項目以上あることも診断に必要です。家族(特に母親)内にも片頭痛の患者さんがいることも特徴です。目の前が暗くなり、ピカピカ・チカチカするといった前兆があることもあります。

一方、緊張型頭痛は頭が締め付けられるように痛むのが特徴です。頭や肩、首の筋肉の緊張やストレスが原因といわれます。

たまにしか起きない緊張型頭痛なら程度も比較的軽いため日常生活に支障をきたすことはないのですが、慢性化することがあります。これを慢性連日性頭痛(Chronic daily headache:CDH)といい、1日4時間以上の頭痛が、月15日以上、3か月以上続くものです。女児が男児の2~3倍多く、12歳~14歳の中学生に多く見られることが分かっています

Q3.緊張型頭痛と片頭痛の特徴は?

片頭痛 緊張型頭痛
発作的?
持続時間 2-72時間 30分~7日間
性質 拍動性(ズキズキ) 締め付け感

圧迫感(ジーン)

部位 両側~片側側頭部
強さ 強い 弱い(TVを見ていられる)
日常動作による悪化 あり なし
悪心・嘔吐 あり なし
光過敏・音過敏 あり どちらかがあることもある
家族歴 あることが多い 少ない

 

Q4.頭痛の子どもの生活で注意するポイントは?

頭痛予防の確実な方法はありませんが、次の点に注意しましょう。適度な運動やおうちの手伝いは毎日少しずつ行いましょう。ただし、片頭痛が起こってしまったら運動を避けて安静が必要です。

  1. 早起き・早寝、食生活などの日常生活リズムを整える。
  2. 休日も平日と同じ時間に起き,同じ時間に寝るように心がける。
  1. 夜は暗く静かな部屋でゆっくりと休む。
  2. 高過ぎる枕を避ける。

 

片頭痛の場合、特定の食品で誘発、悪化することが知られています。少量のカフェインには血管収縮作用があり、頭痛を予防する効果が期待できますが、大量(成人で200mg/日以上)のカフェインを連日取り続けると、カフェインの薬物依存を生じやすくカフェイン離脱性頭痛をきたす場合もあり注意が必要です。

頭痛の誘発因子を見つけましょう。

精神的因子 ストレス、精神的緊張、疲れ,睡眠不足

睡眠過多

内因性因子 月経周期
環境因子 天候の変化、温度差、炎天下、頻回の旅行

激しい運動、人ごみ、におい

食事性因子 空腹(低血糖)、ベーコン、ソーセージ、

チョコレート、チーズ、カフェイン、グルタミン酸ナトリウム

合併症 起立性調節障害、アレルギー性鼻炎

気管支喘息、副鼻腔炎

 

Q5.片頭痛の治療は?

子どもの片頭痛は成人に比べて軽症であることが多いため、必ずしも薬を必要としません。

【治療薬】

頭痛が始まったら、まず静かな暗い部屋で安静を保たせます。次いでできるだけ早く薬を服用します。

①一般の鎮痛薬

イブプロフェン(ブルフェン®)

アセトアミノフェン(カロナール®)

②片頭痛の治療薬

片頭痛で拡張した血管を収縮させて、三叉神経からの痛み物質の分泌をブロックします。

トリプタン製剤

イミグラン錠®、イミグラン点鼻®、マクサルト錠®

③予防治療薬

片頭痛の児で、急性期治療薬を週2回以上使用、あるいは頭痛発作に毎回嘔吐を伴う場合には予防薬を使うこともあります。

年長児ではトリプタノール、年少児ではペリアクチンを用います。

上記薬剤で効果がないときいはデパケン、トピナ、ミグシスや漢方薬を用います。

 

 




熱性けいれん Q&A

Q1.熱性けいれんって何?

生後6カ月から5才くらいまでの子どもが、風邪や突発性発疹などで熱を出したときに、急に意識を失って、全身のひきつけを起こすことがあります。そのような揚合に、熱の他にはけいれんを起こす異常(髄膜炎、脳症、てんかんなど)がみられない時、熱性けいれんと診断されます。

けいれんするときの体温は38℃以上のことがほとんどですが、中には37℃台でけいれんすることもあります。大多数は、熱が出てから2日以内にけいれんが起こります。

Q2.熱性けいれんの原因は?

脳が発達段階にあり、未熟性に基づいていると考えられていますが、詳しい原因はまだわかっていません。

Q3.熱性けいれんって珍しい病気なの?

子どもの15人~20人に1人くらいに見られる病気で、稀な病気ではありません。

Q4.熱性けいれんを起こすと熱を出すたびにけいれんするの?

熱性けいれんをおこした子どものうち、半分以上の子は1回だけのけいれんで再発はありません。残念ながら、30%程度の子に再発が見られますが、以下の4つの因子がなければ再発率は15%程度です。

□両親のいずれかに熱性けいれんがある

□1歳未満の発症

□発熱に気づいてから発作までの間隔が1時間以内

□発作時の体温が39℃以下

 

Q5.熱性けいれんを起こすと何か後遺症が出たりしないの?

特別な場合を除いて、熱性けいれんで後遺症が出ることはありません。何回か繰り返しても、それだけで後遺症をきたすことはありません。

Q6.熱性けいれんって治るの?てんかんになる?

年長になると自然にけいれんしなくなり、小学生になってからけいれんすることは稀です。また、大体2年間位けいれんがなければ安心できます。

熱性けいれん後にてんかんを発症する率は2.0~7.5%程度で,一般の人 (0.5~1%)よりやや高めですが、次の4つの因子がなければ可能性は低いといえます。

□熱性けいれんの発症前に別の神経学的異常がある

□両親・きょうだいにてんかんの人がいる

□複雑型熱性けいれん

I  部分発作(焦点性発作)

II  けいれんの持続が15分以上

III 24時間以内のけいれん再発  のいずれか一つ以上

□発熱に気づいてから発作までの間隔が1時間以内

 

Q7.脳波検査は?

もともと脳波検査はてんかんの診断の目的で行われます。脳波に異常があるとてんかんを発症しやすいのは確かですが、てんかんに関連しないことも多く、ガイドラインでは「脳波検査は単純型熱性けいれんに対しては勧められない」とされています。特にけいれん発症7日以内の脳波は診断能力が低く、検査の意味がありません。神経学的に異常のない子に熱性けいれんの発作後7日以内といった早い時期に脳波検査を行うことはおすすめできません。

Q8.熱性けいれんって遺伝するの?

ご家族の中に、子どもの時に熱性けいれんを起こした方がいることか多いようです。背の高さや顔のつくりが似ているように、熱に対する脳の反応も似ているということです。

Q9.熱性けいれんを起こしやすい薬は?

第一世代抗ヒスタミン剤(ペリアクチン、テルギンGなど)、ザジテン、テオフィリンで熱性けいれんを誘発するとのデータはありませんが、けいれん発作を長引かせる恐れがあります。用いないほうが賢明です。

Q10.解熱剤は使っていいの?

解熱剤を使用して一旦熱が少し下がった後に熱が再上昇し、この際にけいれんが誘発されるので解熱剤を使ってはいけない」などといわれていましたが、これを明確に示したデータはなく、解熱剤の使用を制限する必要はありません。

Q11.ダイアップでけいれん予防するのはどんなとき?

1.当院では熱性けいれんを起こして受診した際にはダイアップでけいれんの再発予防を行います(別の意見もあります)。この薬はけいれん再発を14.8%→2.1%まで抑えることができます。

  1. 熱性けいれんは後遺症を起こさない良性のけいれんですが、いくら良性といってもけいれんを繰り返すのは親御さんにとっては気持ちのいいものではありません。このため、一部のお子さんでは発熱時に熱性けいれんを予防します。この再発予防の有効性は高いのですが、副反応もあることから以下の場合に適応を限ります。

適応基準

□①けいれんが1回だけでも15 分以上持続したもの(遷延性発作)

□②次の6項目のうち2つ以上を満たした熱性けいれんを2回以上繰り返す

□部分発作(焦点性発作)または24 時間以内に繰り返す

□熱性けいれん以前にある神経学的異常,発達の遅れ

□熱性けいれんまたはてんかんの家族歴

□1才未満の発症

□発熱に気づいてから発作までの間隔が1時間以内

□38℃未満での発作

熱性けいれんの予防方法

けいれんの再発予防としてけいれん止めの座薬(ダイアップ)を用います。以下の方法に従ってご使用ください。

使用薬剤 ダイアップ 4mg ・ 6mg

けいれん止めの座薬です。熱さましではありません。

使用方法

①熱を測って37.5℃以上の熱があったら

☞ 1本目のダイアップ座薬を入れる。

8時間後に2本目のダイアップ座薬を入れる。

この場合熱が37.5℃以下になっていても入れてください。その後再発熱してけいれんに至ることがあります。結果的に大した熱でなかったとしても心配いりません。ダイアップの副作用は一時的な眠気やふらつきが生じることがありますが、数時間で自然に回復します。

投与はこの2回で終わりです。それ以上は特別な指示のない限り使用しないでください。2日目以降に起こるけいれんは熱性けいれん以外の病気もあり、けいれんが起きたために診断できることもあります。2日目以降にけいれん止めを使い続けると、逆に診断の遅れにつながることもあります。

いつまで予防が必要か?

熱性けいれんを反復する時期は初回発作から1年以内が70%,2年以内が90%と報告されていますので、最終発作から1~2年,もしくは年齢として4~5歳まで用いるのがよいと考えられます。

Q12.熱性けいれんを起こすと予防接種はできない?

熱性けいれんをおこしたお子さんだからといって、予防接種による副作用が強く出ることはありません。気にせず接種を受けていいといえます。以前はけいれんをおこした子は、基本的に1年間は接種を控えられていました。しかし考えてみれば、けいれんを起こしやすい子ほど予防接種で病気を予防しておく必要があります。現在当院では、けいれんから2カ月間は熱性けいれんを繰り返すかどうかなどの観察期間とし、その後に接種を実施しています。

けいれん発作時の応急処置

1. あわてず、冷静に判断する

通常のけいれんは数分で終わります。また、その数分で生命の危険が起こることはほとんどありません。発症時間と持続時間を記録しましょう。

2. 危険なものを取り除く

まわりから危険なものを取り除き、寝かせて衣服をゆるめる。

3. 顔を横に向ける

吐いたものがのどにつまらないように顔を横に向ける。

4. 発作が終わるまでそばにいて見守る

発作中に体をたたいたり、ロに物をかませたりする必要はありません。舌をかむことを心配する必要はありません。発作は人為的に止めるのは不可能ですから、よけいな処置は無用です。




子どもの便秘

子どもの便秘の95%以上は図のように排便がまんから始まる悪循環によるものです。しかし、一部に特殊な病気による便秘もあります。しかし、それ以前に便秘でないものを「便秘」と考えているお母さん方も多く、注意が必要です。チェックすべきポイントは、便の硬さとそれに伴う症状、児の発育の3点です。

まず、便秘の訴えで受診された際には、2週間程度の排便記録をつけていただきます。すぐには治療にならないので不満に思う方もあるかもしれませんが、2週間の排便記録でその児の状態をきちんと評価して本当に便秘なのか見極める必要があるからです。というのも、「便秘」の訴えであっても便秘でないものがあるからです。

 

I.便秘ではないもの

① 赤ちゃんの稀少排便

乳幼児の排便回数は、生後1か月で一日6回くらいだったものが、生後2か月以降は一日1回となります。生後1か月までは腸の水分吸収能が未熟なために腸内に水分が残りやすく軟便傾向になります。特に母乳栄養ではオリゴ糖の作用で浸透圧が高くさらに軟便となり、また授乳のたびに排便に関わる反射が誘発され、排便回数も多いことが知られています。

一方、母乳栄養では排便回数の個人差が大きく、24時間以上排便の見られなかった「稀少排便」は37%に経験され、特に生後1か月以内に起こりやすいとされます。これらの多くは6日に一度の排便であり、最長で28日間出なかったものもありました。稀少排便を知っている保護者は67%が特に何もせずに経過観察にとどめていましたが、知らない保護者の79%は腹部マッサージ、浣腸、緩下剤の使用、フルーツジュースなどを与えて対応していました。排便回数が少ないことを相談すると、場合によっては「便秘」や「母乳不足」などと言われ、薬や「ミルクを足しなさい」といった指導がなされていることがありますが、これらの判断は慎重にすべきです。「稀少排便」は児の健康に問題はなく、将来の便秘との関連はありません。

② 乳児排便困難症

便が出るときを考えましょう。直腸は便を押し出そうとし、肛門は大きく広がってこれを通します。この時に肛門が締まってしまったらどうなるでしょうか?便は出せません。

赤ちゃんの時期には便を出そうとする→肛門が開くといった一連の動きがまだうまくないため、スムースに排便できないことも多いのです。これを乳児排便困難症と言います。赤ちゃんは10分以上いきんでも排便できず、排便回数が少ないことで保護者は「便秘」と考えてしまいますが、この場合は便の硬さを確認することが必要です。乳児排便困難症の便は通常やわらかく、通過困難をきたすようなものではありません。これは便秘ではなく、特別な治療をしなくても自然に解消します。日本では綿棒による肛門刺激がよく行われますが、赤ちゃんは実は痛みや刺激を感じやすく、痛みを和らげるシステムも育っていません。あまり大したことはなさそうですが、赤ちゃんは苦痛を感じている可能性もあり、肛門処置はあまり好ましくありません。

 

II.子どもの便秘

①食事内容の変化による便秘

母乳栄養から人工乳への切り替え時や離乳食・補完食の開始時には便秘になりやすいことが知られています。

食事内容の変化による便秘の場合は一時的なものが多く、便がたまっていれば浣腸を用いますが、麦芽糖エキス(マルツエキス)など比較的作用のやさしい浸透圧下剤でコントロールすることもあります。

② 幼児・年長児期の排便がまんにともなう便秘

生後18ヶ月を越えると、排便の意識的コントロールができるようになり「排便がまん」も起きてきます。慢性便秘の始まりです。

慢性機能性便秘

便秘はRome IVの診断基準に従って診断します。これは以下の6項目のうち2項目以上が1ヶ月以上続き、便秘が解消されても腹痛が続くものを除きます。

1.1週間に2回以下の排便

2.トイレでの排便を習得した後,少なくとも週に1回の便失禁

3.過度の便の貯留の既往

4.痛みを伴う,あるいは硬い便通の既往

5.直腸内の大きな便塊

6.トイレが詰まるくらい太い便の既往

便秘と診断されたら、治療に移ります。

① たまって硬くなった便を出す(disimpactionといいます)

通常、浣腸を3日間程度行って直腸内をクリーンにします。

② 維持療法

便をためないように、また、苦しい排便を避けてその間に排便トレーニングをします。

日本では酸化マグネシウムとラクチュロース(商品名モニラック、ピアーレ)が代表的ですが、一般に用いられる量では酸化マグネシウムの方が良好な排便が得られるため、当院では酸化マグネシウムを基本としています。酸化マグネシウムは高齢者ではマグネシウム値が高くなりやすいとして注意が喚起されていますが、子どもでは腎機能がしっかりしていることから問題となる高マグネシウム血症は通常は起こりません。当院では酸化マグネシウム治療中にはマグネシウム値もモニターしていますが、これまでの便秘の児180人での350回に及ぶ検査で一例も問題となったことはありません。

ラキソベロンなどの刺激性下剤も用いられることがありますが、腸を刺激しない酸化マグネシウムで充分良い効果が得られることから、刺激性下剤は次善の策と考え、酸化マグネシウム単独では効果不十分な時に限っています。

なお、2108年12月より日本でもポリエチレングリコール(PEG)が使えるようになりました。海外の便秘治療指針の第一選択とされる薬剤で、有効性は他の浸透圧下剤より優れ、副作用はほぼないといった理想的な薬剤です。今後、この薬剤にシフトしていくものと思われます。

③ 排便トレーニング

維持療法の薬だけで便秘が治るわけではありません。あくまでも薬は排便トレーニングをしやすくするためのものです。直腸は水分を吸収するのが仕事ですから、そこ便がたまっていれば水分をどんどん吸収して便を硬くしてしまいます。そうなる前に排便してしまえばいいわけで、毎日の排便トレーニングが大事です。とはいっても、便秘が長く続いた子では直腸が拡がっています。つまり便を貯めやすくなっており、さらに「便意」は直腸の壁が引き伸ばされることによって誘発されますが、いつも引き伸ばされているとそれに慣れてしまって便意も感じにくくなります。ですから、「便意を感じなくても出す」といった努力が必要になります。

当院で便秘を治療した児はここ4年半(2013-2018)で229人ありますが、このうち薬を全てやめて卒業できた子は131人でした。この子らは排便の日数が週5.5日と多く、排便時間がトレーニング時間にほぼ一致しており、毎日の排便レーニングが成功していたことを示しています。また、柔らかい便であっても排便前に腹痛を訴える子は、腸管がやや過敏になっていると思われ、残念ながら治療に少し時間がかかるのですが、それでも腹痛のない子(平均約600日で治癒)に比べて平均700日で治癒しています。

便秘の治療期間はやはり著しく長いのですが、それはトレーニングを確立させるために必要な時間と考えてください。子どもの便秘で大半を占める排便がまんにともなうもの(慢性機能性便貯留型便秘)ではきちんと治ります。

 




血尿・タンパク尿

Q1.毎年、学校で尿検査をしていますが、何の目的?

多くの腎臓病は自覚症状に乏しいのですが、逆に何らかの自覚症状が出たものでは病気は進行して重度になっていることが多く、早期発見・早期治療が重要な病気です。千葉市のデータで,1975年から1985年に学校検尿を受けた児童22万人のうち慢性腎炎は103人発見され,うち8人が末期腎不全になってしまいましたが、早期治療できるようになった1985年以後の10年間で発見された慢性腎炎124人中では1人も末期腎不全にはなりませんでした。腎臓病の症状は末期にならないと現れません。早期発見・早期治療することで不幸な末期腎不全を防ぐことができます。

学校検尿での血尿は約 1%に,蛋白尿は約 0.3~0.5%に,蛋白尿と血尿の合併例は約 0.1%に発見されます。しかし、 このうち将来問題となる慢性腎疾患は稀です。

Q2.腎臓の働きは?

腎臓には、「ネフロン」と呼ばれる構造が約100万個あります。ネフロンは、ろ過装置の「糸球体」と、そこからつながる「尿細管」でできています。

血液が糸球体に流れ込むと、糸球体の壁から老廃物を含んだ原尿がこし出されます。その後、原尿は尿細管を通るときに、タンパクなど体に必要な成分や水分は再吸収されます。

毛細血管内の水分や老廃物は基底膜とポドサイトを通って濾過されます。したがって基底膜や、それを支えているポドサイトが傷害されていると、漏れてはいけない高分子タンパクや赤血球が漏れ出すことになります。

Q3. おしっこに血が混じっていると言われました。

①腎尿路系以外の尿潜血

〇ほかの部位からの混入・・生理の出血、陰部の外傷

〇ヘモグロビン尿、ミオグロビン尿

体内の血管の中で溶血(赤血球の破壊・・剣道など強く足の裏を踏み込む動作や陸上競技で起こります)が起きると、赤血球内にあるヘモグロビンが血液中に出てきて腎臓で濾過されるために、尿潜血が陽性になることがあります(行軍性血尿)。また、けいれん重責や外傷、熱中症などで筋肉組織が破壊された場合に、筋肉内のミオグロビンが血中に出てきて潜血反応が陽性に出ることがあります。

②腎尿路系の潜血

〇 腎臓由来の潜血・・糸球体性血尿といわれます。腎臓の透過膜を通過してくるため、赤血球が変形したり不均一になり、時に赤血球円柱が出てきます。

無症候性血尿の1/3~1/4は生まれつき糸球体の基底膜(濾過膜)が薄いために赤血球が漏れ出る菲薄基底膜病(TBMD)ですが、難聴や腎不全をきたした方が家族内にいる場合や、タンパク尿を合併してきた場合には注意が必要です。

〇 尿路由来の潜血・・非糸球体性血尿です。腎臓の透過膜を通過しないため赤血球は形が保たれています。病気としてはNutcracker症候群や腎尿路結石のことがあります。Nutcracker症候群は、左腎静脈が腹部大動脈と上腸間膜動脈に挟まれるため、やせ型の児で腎静脈が圧迫されてうっ血をきたすために血尿をきたすと考えられています。

腎炎のない場合では、血尿の37%が高カルシウム尿症による尿路結石の可能性があります。子どもの尿路結石は痛みがないこともあり、痛くないからと言って否定はできません。腎尿路結石は尿酸の排泄過剰で起こることもあります。

血尿だけの場合は、問題になるのは肉眼的血尿(見た目で赤いおしっこ)が出たときや高血圧・腎機能異常を合併してきた時です。

③そもそも血尿でないもの

赤ちゃんで尿にピンクやオレンジ色がつくことがあります。これは尿酸塩やシュウ酸塩の結晶で血尿ではありません。薬ではアスベリン、セフゾン、リファンピシンで尿に着色することがあります。

Q4血尿の経過観察は?

血尿の半数近くは1年くらいで自然に消えてしまいますが、問題になるのはタンパク尿を合併してきたときです。この場合は腎炎も考えられ、早期治療のために精査が必要になります。早期発見のために経過観察は欠かせません。血尿発見後1年間は3か月ごとに検尿を,以後は血尿が続くかぎり1年に1–2回の検尿を行います。

Q4.おしっこにタンパクが出ていると言われました。

尿検査で血尿のみのものは腎病変が軽いことが多く、タンパク尿の程度がひどくなるほど腎病変が強いことが多いので、注意が必要です。また、特に蛋白尿に血尿を合併しているものは精密検査が必要です。

タンパク尿を見たときにはまず、生理的タンパク尿と起立性タンパク尿を除外します。

①生理的タンパク尿・・発熱や激しい運動のあとで一時的に出るものです。しばらく経過を観察して尿タンパク/Cr比で0.2を越えていないことを確認する必要があります。

②起立性タンパク尿

臥位ではタンパク尿が出ないものの、立位で動き回るとタンパクが出るものです。朝イチの尿にはタンパクが検出されませんが、日中の活動時にはタンパク尿を来たしています。腎臓自体には病変がないので心配いりませんが、観察が必要です。病院では起立前彎負荷試験で尿タンパクが出現することを確認します。

【糸球体性タンパク尿】

微小変化型ネフローゼ

巣状糸球体硬化症

腎炎症候群

アルポート症候群 etc.

【非糸球体性(尿細管性)タンパク尿】

尿路感染症 (膀胱炎,腎盂腎炎など.)

尿路結石

Nutcracker 症候群

尿路腫瘍~腎がん

尿細管間質疾患 (Dent病,ネフロン癆,Lowe症候群 etc.),

Q5.問題になるタンパク尿は?

タンパク尿の時には上記の糸球体か尿細管性かの区別をします。糸球体性の場合、糸球体(ポドサイトや基底膜)障害のために高分子のタンパクが出てきます。尿細管はタンパクの再吸収をしていますが、ここが傷害されると、再吸収が不十分になるために低分子のタンパクが尿中に出てきます。低分子タンパクは当院ではβ2ミクログロブリンを測定しています。

Q6.尿検査がどうなったら問題になる?

尿異常が発見されたら経過観察が最も重要です。初診時に腎炎がある程度否定できても、その後の経過で腎炎が明らかになってくることがあるからです。はじめの検査では大した異常でなくても、観察しているうちに悪化してくるケースが稀ながらあるからです。腎臓病は早期治療が最も重要ですから、発見が遅れると治療も遅れ、それだけ重症になってしまいます。気をつけなければならないのは、慢性腎疾患(Chronic kidney disease:CKD)を見逃すことです。

A.慢性腎疾患(CKD)の定義は?

CKD の定義は

①明らかな腎障害があること

特に尿タンパク/Cr比0.15 以上の蛋白尿(または尿アルブミン/Cr比30 mg/g以上)があるもの

② 腎糸球体濾過量(Glomerular filtration rate:GFR)

が60(mL/分/1.73m2)未満であること

①,②のいずれか,または両方が 3ヵ月以上持続することです。

腎機能が正常ならGFRはおおむね120(mL/分/1.73m2)程度ですが、この検査は煩雑なので血中Crである程度推測することができます。

2歳以上11歳以下の小児については,
eGFR (%)= (0.3×身長 (m)/患者の血清 Cr値)×100で表されます。例えば4歳で身長120cmの児が血中クレアチニン 0.5mg/dlなら、eGFR=72mlとなります。

また、より簡便に本邦の小児 (1-12 歳)の血清クレアチニン値の正常値と比較する方法もあります。

血清クレアチニン値 = 身長 (m) x 0.3

(上記数値に x1.4 超は明らかな異常)

 

B.精密検査の対象は?

以下の場合には精密検査の対象となります。

1.早朝尿蛋白および尿タンパク/クレアチニン比

(U-prot/Cr)が

1+程度,0.2~0.4 g/gCrは,6~12ヵ月程度で紹介
2+程度,0.5~0.9 g/gCrは,3~6ヵ月程度で紹介
3+程度,1.0~1.9 g/gCrは,1~3ヵ月程度で紹介

また、以下の状態があれば,早期に精密検査を行うことになります。

□ 肉眼的血尿(目で見て明らかに血尿とわかるもの)

□ 低タンパク血症~血清アルブミン 3.0g/dL未満
□ 補体(C3)が低くなるもの
□ 高血圧
□ 腎機能障害