中耳炎

Q1.中耳炎と言われましたが・・?

生後6カ月~5才くらいまでの子はかぜをひいたときに中耳炎をおこしやすく、自分で痛いと言えないので大人が注意をしてあげる必要があります。中耳炎は生後6か月までに47.8%,1才までに78.9%,2才までに91.1%の子が1 回は中耳炎にかかるといわれますので珍しいものではありません。

中耳炎にかかると中耳に炎症が起こり、ここに浸出液(うみ)がたまって鼓膜がパンパンに張って痛くなります。小さな赤ちゃんでは耳を気にする、引っ張る、こすりつけるといったことで気づかれます。耳鏡やファイバースコープで耳の中をのぞくと、鼓膜が赤くなって腫れているのがわかります。写真は当院のスコープで見た中耳炎のときの鼓膜所見です。鼓膜の裏側に中耳に滲出液が少し溜まっているものから、パンパンに腫れ上がって破裂寸前のもの(風船状)、破裂して耳だれになっているものまで様々な段階のものが見られます。

Q2.中耳炎の原因は?

中耳と鼻の中は「耳管」という管でつながっています。ふだんは中耳の中は無菌状態が保たれていますが、カゼのときにはこの耳管を介してウイルスや細菌が中耳に侵入し中耳炎をおこします。ですから、中耳炎の発症前には鼻かぜをひいていることが多く見られます。

また、4-5歳までの子どもはこの耳管が太く水平になっているためにウイルスや細菌が上がっていきやすいのです。中耳炎の原因は多くの場合細菌性です。

Q3.中耳炎を合併しやすいウイルスは?

RSウイルス(74%)、パラインフルエンザウイルス(52%)、インフルエンザウイルス(42%)、アデノウイルスなどが知られています。これらのカゼの時には中耳炎を合併しているかもしれません。

Q4.中耳炎の原因になる細菌は?

中耳炎をきたす細菌はインフルエンザ菌(インフルエンザとは違います!要注意)肺炎球菌、モラクセラ・カタラーリスの3大原因菌です。残念ながらこれらの細菌のうち2/3くらいは抗生剤が効きにくくなってしまいました。

Q5.中耳炎の重症度は?

子どもの中耳炎は重症度に応じて治療が変わります。下の表で点数をつけてみましょう。

合計点で

軽症  5点以下

中等症 6-11点

重症  12点以上  となります。

 

Q6.中耳炎って治るの?繰り返しませんか?

中耳炎は発熱や耳痛といった症状は1週間以内になくなりますが、中耳にたまった滲出液は2週間後でも60-70%,1か月後でも41%,3か月後でも26%に見られます。

少し問題となるものが遷延性中耳炎です。これは中耳炎発症後3週間以上経過して発熱や耳痛といった中耳炎症状がないにもかかわらず、急性中耳炎の鼓膜発赤や膨隆、中耳貯留液が残存しているものでsemi-hot earともいわれます。

また、滲出性中耳炎はこれらの症状や急性炎症所見としての鼓膜発赤がないが、中耳貯留液が一定期間(3週間程度)残っているものとされます。

残念ながら中耳炎を繰り返す場合があります。過去6カ月以内に3回以上、12カ月以内に4回以上の中耳炎をきたした場合に反復性中耳炎とされます。1才までに9-18%、3歳までに30-40%の子が3回以上中耳炎を繰り返します。繰り返しやすい子には、2才未満、安易な抗生物質使用による耐性菌の保菌、兄弟あり、保育園児、人工栄養児、おしゃぶりの使用、家族内の喫煙者ありが関係するといわれます。

Q7.中耳炎の治療は?

 

ガイドラインに従い、当院では以下のように治療します。

 

 

 

Q8.耳鼻科に行かなくてはいけない

のはどんな時?

当院では子どもの状態に応じて必要な時に近隣の耳鼻科に紹介しています。そのような状態の時とは・・

 

①重症例で治療効果が上がらず鼓膜切開を必要とするとき

②急性中耳炎から3か月たっても中耳貯留液が残って改善傾向のないもの

③繰り返す反復性中耳炎の時です。

Q9.中耳炎の子どもが家庭で注意すること

は?

①耳痛のある時、熱さましを使うと痛みは軽くなります。夏がなくても使ってかまいません。2%キシロカインの点耳療法も効果があります。

②鼻すすり癖とおしゃぶり(指しゃぶりではない)は滲出性中耳炎に移行しやすくなります。鼻をかむ練習をして、おしゃぶりをやめましょう。

カゼから中耳炎に至るメカニズムは鼻汁が強く関係しますので、当院では積極的に鼻処置をしています。

③点耳薬は、鼓膜に穴があって中耳に薬が入っていけるとき(鼓膜穿孔のあるとき、鼓膜チューブを入れているとき)にだけ効果があります。

④中耳炎で鼓膜に穴があっても水泳や入浴には差し支えありません。

⑤インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチン(プレベナー)は中耳炎予防にも効果があります。接種してください。

⑥耳掃除は小さな子どもでは勧められません。当院では必要に応じて耳処置・掃除もしています(要予約)

Q10.滲出性中耳炎に移行させないために

 

乳児の滲出性中耳炎は50%が急性中耳炎に引き続いて起こってきます。鼻すすり癖などで耳管が充分に機能せず、中耳内が陰圧化し、貯留液が排出されにくくなります。おしゃぶりを避け、鼻をかむことを覚えましょう。

 

 

 




ビタミンD欠乏症

Q1.母乳が理想的な栄養なんですよね?

赤ちゃんにとって母乳が最も好ましいのは言うまでもありません。精神発達面の利点、母児の愛着形成がよくなる、免疫力が高められ感染症にかかりにくい、将来、肥満や糖尿病になりにくい、アレルギー性疾患が予防できる等のメリットが多くあります。しかし、一方で欠点もあります。主に二つですが、① ビタミンDが足りない、②鉄が足りない、です。鉄が不足して起きる鉄欠乏性貧血については生後6-10カ月ころに問題になりますので、当院ではそのころ貧血のチェックを行っています。ですが、ビタミンD不足は生後すぐから問題になります。

Q2.ビタミンD不足は何が問題?

ビタミンDは主には腸からカルシウムの吸収を高める作用がありますが、そのほかにも免疫やアレルギー予防に関わっています。

① 骨と歯が弱くなります。カルシウムが吸収されにくくなり、O脚や頭蓋癆(ずがいろう)といった「くる病」をきたす場合もあります。

頭蓋癆・・頭蓋骨がうすく、指で押すだけでへこみます。夏-秋はそれほど発見されませんが、ビタミンD不足がひどくなる冬-春にかけては結構起こります。

O脚・・カルシウム不足で骨が弱くなるために歩き始めると骨が曲がりはじめてO脚をきたします。

② 免疫力が弱くなり、カゼ・インフルエンザや重症感染症にかかりやすくなります。

③ アレルギーになりやすくなります。最近、食物アレルギーが増えているのは、ビタミンD不足が増えてきているからだとする説もあります。

④ 将来、糖尿病やがんになりやすくなるといった報告もあります。また、自閉症や統合失調症との関連を示唆されています。

Q3.ビタミンD不足になったのはなぜ?

ビタミンDは日光(紫外線)によってつくられるものがほとんどです。若い女性が日光を避けるようになったために、妊婦さんがひどいビタミンD不足になっています。お腹の中にいる赤ちゃんはお母さんからビタミンDをもらうしかないので、お母さん以上にビタミンD不足になります。

人工乳にはビタミンDが大量に添加されていますから、人工乳で育てた子は生後数カ月もすればビタミンD不足が解消するのですが、母乳はビタミンD不足のままですから、母乳で育てられた赤ちゃんはビタミンD不足が続くことになります。

Q4. うちの子に限って大丈夫なのでは?

2016年に当院で母乳の子のビタミンD不足の調査をしました。不足とされる25OHD 20ng/ml以下の子は141人(155人中)で、91.0%と

ほとんどの赤ちゃんが不足し、96人(61.9%)はひどい欠乏状態と判定されました。

下のグラフがそうですが、日照時間の長くなる夏-秋にかけてやや改善するものの、全体として20ng/mlの最低レベルに達している赤ちゃんはほとんどいないことがわかります。

 

 

Q5.ビタミンD不足なんて聞いたことがないし、ここの先生が騒いでいるだけなのでは?

違います。

ビタミンD不足の最も怖いところは「症状として外から見えない」ことです。骨が曲がってしまったような場合はすぐわかりますが、「うちの子はカゼにかかりやすいな」「食物アレルギーになってしまった」などビタミンD不足によって起こっていることを知らなければ、原因不明のまま終わります。

母乳栄養児のビタミンD不足は海外では常識です。米国・ヨーロッパともに「赤ちゃんが生まれたらすぐにビタミンDを一日400単位の補充を!」と指導され、ヨーロッパでは9割の赤ちゃんがビタミンDを補充しています。街角のスーパーの棚にはいろんなメーカーのビタミンDサプリメントが大量に売られているそうです。「知らないのは日本だけ」なのです。

 

Q6.母乳をやめてミルクにすればいいの?

違います。

ビタミンD不足は母乳のごく小さな欠点なのです。母乳には人工乳が逆立ちしても勝てない利点が多くあります。母乳の欠点はサプリメントで補えばいいだけのことです。

 

Q7.ビタミンDの治療は?

当院では、母乳・混合栄養を行っている赤ちゃんは、少なくとも1歳になるまではビタミンDを一日400単位(ベビーDとして一日2滴)の補充をお勧めしています。

メーカーの箱の説明文では一日1滴(=200単位)と書かれていますが、上の図のように200単位では不足が解消されない子がかなりいます。400単位で多くの子が最も望ましいとされる30 ng/ml前後に達します。

ビタミンD過剰は一般に一日1600単位(お勧めしている量の4倍)を数カ月続けた場合にはありえますが、通常の使用量でビタミンD過剰が起こることはありません。

 

Q8.混合栄養ですが・・。ミルクも一日500ml飲んでいます。

人工乳1000ml中には一般にビタミンD400単位が含まれています。必要なビタミンD量を一日400単位とすると、人工乳500mlをとると半分の200単位がとれることになります。ですから、人工乳500mlを飲んでいる混合栄養の赤ちゃんは一日200単位(ベビーDとして1滴)補充すればいいでしょう。

 

Q9.1歳過ぎてもビタミンDの補充は必要?

これまでの報告データでは、1才を過ぎればビタミンD不足は自然に解消することが示されています。1才を過ぎると外遊びの機会が増えて、子ども自身が日光を浴びるようになるためと思われます。

しかし、最近子どもにも日焼け止めを塗ることが勧められてきています。海外(特に白人)では日焼けと皮膚がんの関連が示されていて、人種によっては日光浴は有害です。しかし、黄色人種である日本人では日光浴で皮膚がんが多発することは示されていません。厳密に考えるのであれば、日焼け止めを塗ってベビーDを飲み続ける方法もありますが、日本人にはやや過剰反応のように思います。




母乳育児を支援しよう

大きいことはいいことだ?

ー初めてのおじいちゃん、おばあちゃんへ―

今日の話題は昭和の時代のことです。当時は高度経済成長の真っただ中にあって、人々は物質的な豊かさに初めて触れ、「大きいこと」「豊かなこと」が素晴らしいことのように言われていました。チョコレートは「大きいことはいいことだ」と宣伝し、太った大きな赤ちゃんが表彰される「赤ちゃんコンクール」が全国で行なわれていました。小さく生まれた赤ちゃんも「小さく産んで大きく育てる」とばかりに栄養価の高い人工乳が与えられました。この時代には人工乳は栄養的に母乳より優れているとされ、経済的に豊かになった国民には人工乳に対する栄養信仰のようなものが作られていきました。

 

今、その頃の大きな赤ちゃん達は、さらに年を重ねてオジちゃんやオバちゃんになりました。中には健診でメタボとされる人もいます。赤ちゃんの時の栄養過多がメタボ予備軍を作っていたのです。メタボのオジちゃん・オバちゃんは自らは病院からダイエットを指示されることになりますが、孫として生まれた赤ちゃんのことになると昔の人工乳に対する栄養信仰が頭をもたげてきます。

深夜に泣く赤ちゃんを持てあましている母

夫「う~ん、今何時?何で泣いてんの?近所迷惑だろ。俺、明日は早番だぜ―」

母「どうしても泣きやまなくて・・どっか悪いとこでもあるのかしら」

夫「お腹すいてんじゃないの?おっぱいやったら?」

母「さっきからやってるんだけど、泣きやまないのよ」

騒ぎを聞きつけてきて姑が起きてくる。

姑「おっぱい出てないんじゃないの?」

母「お義母さん、この間の健診ではちゃんと体重も増えてるから、母乳も十分出てますよって言われたんですよ」

姑「体重増えてるって言ったって、こんなに痩せてるじゃない。あんたがあんまり母乳にこだわるから・・足りないのよ、母乳が。ミルクの方がずっと栄養価が高いんだから」(だいたい、あんたも好き嫌いひどいんだから、あんたの母乳なんて栄養あるもんだか・・ま、これは言っちゃいけないか)

母「そうよね・・こんなに泣いてるんですものね・・」

かくして、訳もなく泣き続けたために、母乳を飲む権利を失った赤ちゃんがまた一人つくられました・・

WHOや日本小児科学会が母乳栄養推進を提唱するまでもなく、赤ちゃんにとっての栄養は母乳に勝るものはありません。しかし、多くの母親は生後1か月以内といったわりと早期に母乳育児を断念します。この最大の理由は母乳が出ていないのではないか?といった「母乳不足感」です。実際には充分な母乳が作られているにもかかわらず、赤ちゃんが泣いたり、ぐずったりすることで「母乳不足」の思い込みに陥ります。生後6ヶ月くらいまでの赤ちゃんは訳もなく泣くことがあります。お腹がすいているわけではありません。この現象を理解して、体重増加を適切に評価することで母乳不足の誤解は避けられます。また、初孫を持ったおじいちゃん、おばあちゃんは人工乳に対する栄養信仰を捨て、母乳の利点と欠点をきちんと理解した上で、新しくお母さんになったお嫁さんを応援してもらわなければなりません。あなた方のお孫さんのために。




ホームページをリニューアルしました!

長く放置していたホームページにようやく手を入れることができました。建築工事でいえば、足場を組んでそのまま3年間・・。まだ不十分ではありますが、少しづつ改定していきます。