血尿・タンパク尿

Q1.毎年、学校で尿検査をしていますが、何の目的?

多くの腎臓病は自覚症状に乏しいのですが、逆に何らかの自覚症状が出たものでは病気は進行して重度になっていることが多く、早期発見・早期治療が重要な病気です。千葉市のデータで,1975年から1985年に学校検尿を受けた児童22万人のうち慢性腎炎は103人発見され,うち8人が末期腎不全になってしまいましたが、早期治療できるようになった1985年以後の10年間で発見された慢性腎炎124人中では1人も末期腎不全にはなりませんでした。腎臓病の症状は末期にならないと現れません。早期発見・早期治療することで不幸な末期腎不全を防ぐことができます。

学校検尿での血尿は約 1%に,蛋白尿は約 0.3~0.5%に,蛋白尿と血尿の合併例は約 0.1%に発見されます。しかし、 このうち将来問題となる慢性腎疾患は稀です。

Q2.腎臓の働きは?

腎臓には、「ネフロン」と呼ばれる構造が約100万個あります。ネフロンは、ろ過装置の「糸球体」と、そこからつながる「尿細管」でできています。

血液が糸球体に流れ込むと、糸球体の壁から老廃物を含んだ原尿がこし出されます。その後、原尿は尿細管を通るときに、タンパクなど体に必要な成分や水分は再吸収されます。

毛細血管内の水分や老廃物は基底膜とポドサイトを通って濾過されます。したがって基底膜や、それを支えているポドサイトが傷害されていると、漏れてはいけない高分子タンパクや赤血球が漏れ出すことになります。

Q3. おしっこに血が混じっていると言われました。

①腎尿路系以外の尿潜血

〇ほかの部位からの混入・・生理の出血、陰部の外傷

〇ヘモグロビン尿、ミオグロビン尿

体内の血管の中で溶血(赤血球の破壊・・剣道など強く足の裏を踏み込む動作や陸上競技で起こります)が起きると、赤血球内にあるヘモグロビンが血液中に出てきて腎臓で濾過されるために、尿潜血が陽性になることがあります(行軍性血尿)。また、けいれん重責や外傷、熱中症などで筋肉組織が破壊された場合に、筋肉内のミオグロビンが血中に出てきて潜血反応が陽性に出ることがあります。

②腎尿路系の潜血

〇 腎臓由来の潜血・・糸球体性血尿といわれます。腎臓の透過膜を通過してくるため、赤血球が変形したり不均一になり、時に赤血球円柱が出てきます。

無症候性血尿の1/3~1/4は生まれつき糸球体の基底膜(濾過膜)が薄いために赤血球が漏れ出る菲薄基底膜病(TBMD)ですが、難聴や腎不全をきたした方が家族内にいる場合や、タンパク尿を合併してきた場合には注意が必要です。

〇 尿路由来の潜血・・非糸球体性血尿です。腎臓の透過膜を通過しないため赤血球は形が保たれています。病気としてはNutcracker症候群や腎尿路結石のことがあります。Nutcracker症候群は、左腎静脈が腹部大動脈と上腸間膜動脈に挟まれるため、やせ型の児で腎静脈が圧迫されてうっ血をきたすために血尿をきたすと考えられています。

腎炎のない場合では、血尿の37%が高カルシウム尿症による尿路結石の可能性があります。子どもの尿路結石は痛みがないこともあり、痛くないからと言って否定はできません。腎尿路結石は尿酸の排泄過剰で起こることもあります。

血尿だけの場合は、問題になるのは肉眼的血尿(見た目で赤いおしっこ)が出たときや高血圧・腎機能異常を合併してきた時です。

③そもそも血尿でないもの

赤ちゃんで尿にピンクやオレンジ色がつくことがあります。これは尿酸塩やシュウ酸塩の結晶で血尿ではありません。薬ではアスベリン、セフゾン、リファンピシンで尿に着色することがあります。

Q4血尿の経過観察は?

血尿の半数近くは1年くらいで自然に消えてしまいますが、問題になるのはタンパク尿を合併してきたときです。この場合は腎炎も考えられ、早期治療のために精査が必要になります。早期発見のために経過観察は欠かせません。血尿発見後1年間は3か月ごとに検尿を,以後は血尿が続くかぎり1年に1–2回の検尿を行います。

Q4.おしっこにタンパクが出ていると言われました。

尿検査で血尿のみのものは腎病変が軽いことが多く、タンパク尿の程度がひどくなるほど腎病変が強いことが多いので、注意が必要です。また、特に蛋白尿に血尿を合併しているものは精密検査が必要です。

タンパク尿を見たときにはまず、生理的タンパク尿と起立性タンパク尿を除外します。

①生理的タンパク尿・・発熱や激しい運動のあとで一時的に出るものです。しばらく経過を観察して尿タンパク/Cr比で0.2を越えていないことを確認する必要があります。

②起立性タンパク尿

臥位ではタンパク尿が出ないものの、立位で動き回るとタンパクが出るものです。朝イチの尿にはタンパクが検出されませんが、日中の活動時にはタンパク尿を来たしています。腎臓自体には病変がないので心配いりませんが、観察が必要です。病院では起立前彎負荷試験で尿タンパクが出現することを確認します。

【糸球体性タンパク尿】

微小変化型ネフローゼ

巣状糸球体硬化症

腎炎症候群

アルポート症候群 etc.

【非糸球体性(尿細管性)タンパク尿】

尿路感染症 (膀胱炎,腎盂腎炎など.)

尿路結石

Nutcracker 症候群

尿路腫瘍~腎がん

尿細管間質疾患 (Dent病,ネフロン癆,Lowe症候群 etc.),

Q5.問題になるタンパク尿は?

タンパク尿の時には上記の糸球体か尿細管性かの区別をします。糸球体性の場合、糸球体(ポドサイトや基底膜)障害のために高分子のタンパクが出てきます。尿細管はタンパクの再吸収をしていますが、ここが傷害されると、再吸収が不十分になるために低分子のタンパクが尿中に出てきます。低分子タンパクは当院ではβ2ミクログロブリンを測定しています。

Q6.尿検査がどうなったら問題になる?

尿異常が発見されたら経過観察が最も重要です。初診時に腎炎がある程度否定できても、その後の経過で腎炎が明らかになってくることがあるからです。はじめの検査では大した異常でなくても、観察しているうちに悪化してくるケースが稀ながらあるからです。腎臓病は早期治療が最も重要ですから、発見が遅れると治療も遅れ、それだけ重症になってしまいます。気をつけなければならないのは、慢性腎疾患(Chronic kidney disease:CKD)を見逃すことです。

A.慢性腎疾患(CKD)の定義は?

CKD の定義は

①明らかな腎障害があること

特に尿タンパク/Cr比0.15 以上の蛋白尿(または尿アルブミン/Cr比30 mg/g以上)があるもの

② 腎糸球体濾過量(Glomerular filtration rate:GFR)

が60(mL/分/1.73m2)未満であること

①,②のいずれか,または両方が 3ヵ月以上持続することです。

腎機能が正常ならGFRはおおむね120(mL/分/1.73m2)程度ですが、この検査は煩雑なので血中Crである程度推測することができます。

2歳以上11歳以下の小児については,
eGFR (%)= (0.3×身長 (m)/患者の血清 Cr値)×100で表されます。例えば4歳で身長120cmの児が血中クレアチニン 0.5mg/dlなら、eGFR=72mlとなります。

また、より簡便に本邦の小児 (1-12 歳)の血清クレアチニン値の正常値と比較する方法もあります。

血清クレアチニン値 = 身長 (m) x 0.3

(上記数値に x1.4 超は明らかな異常)

 

B.精密検査の対象は?

以下の場合には精密検査の対象となります。

1.早朝尿蛋白および尿タンパク/クレアチニン比

(U-prot/Cr)が

1+程度,0.2~0.4 g/gCrは,6~12ヵ月程度で紹介
2+程度,0.5~0.9 g/gCrは,3~6ヵ月程度で紹介
3+程度,1.0~1.9 g/gCrは,1~3ヵ月程度で紹介

また、以下の状態があれば,早期に精密検査を行うことになります。

□ 肉眼的血尿(目で見て明らかに血尿とわかるもの)

□ 低タンパク血症~血清アルブミン 3.0g/dL未満
□ 補体(C3)が低くなるもの
□ 高血圧
□ 腎機能障害