No.32 『授乳と腱鞘炎』
産後の腱鞘炎はお母さんにとって深刻な悩みです。
症状自体の苦痛に加えて育児や日常生活にも支障をきたし、精神的ストレスも重なります。
頑張れば頑張るほど治りが遅くなりますので、早めの対応が大切です。
【母乳外来において経験した相談例】
主訴 : うまく吸わせられない、体重が増えない
生後4か月の児、完全母乳栄養中。
母親は38歳の初産。産科で教えられた横抱き・C ホールド(乳房をC の字で支える)の姿勢で授乳を続けていました。
産後1か月頃から拇指に痛みを感じ、マッサージと鍼治療では改善せず、最後に整形外科を受診しています。
診断名は、狭窄性腱鞘炎 (ドケルバン病)
治療は湿布と安静。実は、別の治療法(ステロイド注射)についても説明も受けていましたが、薬の副作用を心配して希望されませんでした。
サポーターを装着しながら家事や育児を恐々行い、次第に授乳が苦痛になり、3か月乳児健診時では体重の増え方がよくないといわれ、母乳をやめようか悩んだ末、相談に来られました。
小児科医の診察では、児の体重増加は緩やかでしたが、他に異常は認められません。
「児が効果的に飲めているかどうか」、「楽に授乳できる工夫はないか」授乳方法を見直すことにしました。
実際の授乳を見せて頂くと
・「 深く含ませようとするときが辛い」
・「浅飲みをしている」
・「つまめない」
・「クッションの高さが合わない」
問題点を 母親自身が気づいています
「添い乳」を提案。
実践してみると、なんと
「超~楽ちん」
自分に合った方法を見つけました。
16日後、予防接種のために来院。母乳育児を継続しており、児の体重増加も順調でした。
豆知識
関節を動かすのが筋肉。骨と筋肉をつなげて筋肉を動かすのが腱です。
腱鞘炎とは腱と腱鞘(刀のさやのようなもの)がこすれ合うことで起きた炎症です。
筋力の弱い人が長時間同じ姿勢や動作を続けていると、腱に負担がかかります。
予防法の一つとして筋力を落とさないこと、妊娠中に授乳姿勢、搾乳、抱っこの仕方などを具体的に学んでおくことも大切なのかもしれません。
腱鞘炎は妊娠期、産後や更年期によく起こり、女性ホルモンの低下が影響していると言われています。
コラーゲン組織が硬くなると美容面では肌の弾力が失われ、シワやたるみの原因になりますが、実は腱もコラーゲン組織から成っているのです。
腱鞘炎は予防すること、がんばりすぎないこと、早めの対応が決め手です。手外科専門医に相談しましょう!
とみもと小児科クリニック母乳育児支援外来 TAKAKO FURUKAWA