臨床研究
「臨床研究」といっても大学や研究機関でだけ行われるものではありません。むしろ一般の医療機関だからこそ実地診療に即した研究が必要になります。
診療中には、正確に診断して経過を予測したり、早く治癒に結び付けるためにどうしたらいいのかの疑問がいくつも出てきます。リサーチクエスチョンと言いますが、これらを調べてみると内外の論文にすでに報告されていることもあるのですが、わかっていないことも多くあります。患者さんに最新・最良の医療を提供したいと思えば、この解決のためには自院の診療データから重要な情報を抽出して何が正しいのかを検討する、あるいは患者さんに協力していただいて、よりよい医療は何なのかを検討することが必要になってきます。こうして出てきたデータ(臨床での証拠:エビデンス)は学会、研究会の議論を経て実地診療に生かされることになります。
一方、過去には研究のために患者さんの権利やプライバシーが侵害された時代もありました。今の医学はその反省のもとに患者さんの権利やプライバシーを侵して行われる研究は一切認めない立場をとっています。そのため現在では、臨床研究を行う際には医学の専門家や、弁護士さん、患者さんの代表からなる「倫理委員会」で患者さんの権利がきちんと守られているか、研究者の独断になっていないかなどを厳しく審査し、そこで認められた研究だけが実施可能となっています。
当院では、よりよい治療に結び付けるために、診療録から患者さんの検査データや症状等の情報を収集し、統計解析の後に医学系の学会発表や医学論文にまとめて公表することがありますが、その情報から個人が特定されることはありません。臨床研究へのご理解をお願いいたします。
責任者 | 現在進行中の臨床研究 | |
① | 冨本 和彦 | 母乳栄養児における乳児後期鉄欠乏の検討 |
① 現在、当院では2019.1月~2020.12月までの2年間に7か月および10か月健診で受診された赤ちゃんの診療カルテから、鉄の欠乏状態を評価しています。鉄分が不足すると貧血になることはよく知られていますが、実は脳神経の発達にも影響があります。この時期の赤ちゃんは、「首が座る」「お座りする」「ひとり立ちする」「歩く」などと著しい発達を遂げますから、この時期の鉄欠乏は重大な問題になります。
一方、母乳の中には鉄分が極めて微量しか含まれていませんので、母乳中心の赤ちゃんでは離乳食・補完食で充分な鉄が与えられないと容易に鉄欠乏に陥ります。しかし、その離乳食・補完食が問題です。残念ながら日本国内では鉄が強化された離乳食・補完食は手に入りづらいのです。お母さん方が鉄欠乏に注意して離乳食・補完食に気を配っていても、鉄欠乏になっている赤ちゃんはかなり多いのです。
今回、当院では過去のカルテから、母乳中心の赤ちゃんの鉄欠乏状態を調査することにしました。この内容をまとめることで乳児健診がより良い形になり、鉄の不足している赤ちゃんに適切に対応できるようになります。
この内容は内外の学会で報告され論文掲載される予定のものですが、この過程において患者さんの個人情報が外部に漏れることは一切ありません。しかし、もし自身の診療内容を研究に使われたくないという方がございましたら受付にお伝えください。
学術論文 | ||
冨本和彦 | 外来小児科 2008;11:259-266 | 小児期急性鼻副鼻腔炎の臨床 |
古川隆子 | 外来小児科 2010;13:36-39 | 母乳育児支援をつなぐ 小児科クリニックにおける産科退院後の支援の実際 |
冨本和彦 | 外来小児科 2010;13:246-254 | 小児の急性気道炎症における夜間咳嗽の検討 深夜の咳嗽、就眠直後の咳嗽に関連する併存呼吸器症状から咳嗽メカニズムを考える |
冨本和彦 | 外来小児科 2011;14:302-306 | 【東日本大震災を経験して】 小児科無床診療所における震災時対応 |
冨本和彦 | 外来小児科 2012;15:141-148 | 予防接種時の疼痛軽減のために(第1報) 予防接種時の疼痛要因の検討 |
冨本和彦 | 外来小児科 2013;16:2-11 | 予防接種中の疼痛軽減のために(第2報) 接種手技の検討 |
古川隆子 | 外来小児科 2013;16:170-177 | 完全母乳栄養継続を困難にする要因の検討 人工乳補足に至る要因を探る(第1報) |
冨本和彦 | 外来小児科 2013;16:374-387 | 小児期便秘の管理に関する検討(総説) |
冨本和彦 | 外来小児科 2016;19:141-149 | 小児期慢性便秘の治療 酸化マグネシウムとラクチュロースの効果比較 |
冨本和彦 | 小児内科 2016;48:1726-1729 | 【これで安心、小児の時間外診療ファーストタッチ】 夜間・休日急患診療所での初期救急対応 発熱 |
冨本和彦 | 日本小児科学会雑誌 2017;121:80-87 | 腹部超音波断層像による小児直腸径の基準値 |
冨本和彦 | チャイルドヘルス 2018;21:177-180 | 【乳幼児の受診FAQ】 綿棒浣腸は何日に一回やっていいですか?(生後2ヵ月頃~) |
冨本和彦 | 日本医事新報 2018;4916:59-60 | 酸化マグネシウムとミルクの併用が乳児に与える影響は? カルシウムアルカリ症候群の恐れはあるか?(Q&A) |
冨本和彦 | 日本小児科学会雑誌 2018;122:1563-1571 | 北日本の一地域における母乳栄養児のビタミンD充足状態評価 |