ビタミンD欠乏Q&A
Q1.母乳が理想的な栄養なんですよね?
赤ちゃんにとって母乳が最も好ましいのは言うまでもありません。精神発達面の利点、母児の愛着形成がよくなる、免疫力が高められ感染症にかかりにくい、将来、肥満や糖尿病になりにくい、アレルギー性疾患が予防できる等のメリットが多くあります。しかし、一方で欠点もあります。主に二つですが、① ビタミンDが足りない、②鉄が足りない、です。鉄が不足して起きる鉄欠乏性貧血については生後6-10カ月ころに問題になりますので、当院ではそのころ貧血のチェックを行っています。ですが、ビタミンD不足は生後すぐから問題になります。
Q2.ビタミンD不足は何が問題?
ビタミンDは主には腸からカルシウムの吸収を高める作用がありますが、そのほかにも免疫やアレルギー予防に関わっています。
① 骨と歯が弱くなります。カルシウムが吸収されにくくなり、O脚や頭蓋癆(ずがいろう)といった「くる病」をきたす場合もあります。
頭蓋癆・・頭蓋骨がうすく、指で押すだけでへこみます。夏-秋はそれほど発見されませんが、ビタミンD不足がひどくなる冬-春にかけては結構起こります。
O脚・・カルシウム不足で骨が弱くなるために歩き始めると骨が曲がりはじめてO脚をきたします。
② 免疫力が弱くなり、カゼ・インフルエンザや重症感染症にかかりやすくなります。
③ アレルギーになりやすくなります。最近、食物アレルギーが増えているのは、ビタミンD不足が増えてきているからだとする説もあります。
④ 将来、糖尿病やがんになりやすくなるといった報告もあります。また、自閉症や統合失調症との関連を示唆されています。
Q3.ビタミンD不足になったのはなぜ?
ビタミンDは日光(紫外線)によってつくられるものがほとんどです。若い女性が日光を避けるようになったために、妊婦さんがひどいビタミンD不足になっています。お腹の中にいる赤ちゃんはお母さんからビタミンDをもらうしかないので、お母さん以上にビタミンD不足になります。
人工乳にはビタミンDが大量に添加されていますから、人工乳で育てた子は生後数カ月もすればビタミンD不足が解消するのですが、母乳はビタミンD不足のままですから、母乳で育てられた赤ちゃんはビタミンD不足が続くことになります。
Q4. うちの子に限って大丈夫なのでは?
2016年に当院で母乳の子のビタミンD不足の調査をしました。不足とされる25OHD 20ng/ml以下の子は141人(155人中)で、91.0%と
ほとんどの赤ちゃんが不足し、96人(61.9%)はひどい欠乏状態と判定されました。
下のグラフがそうですが、日照時間の長くなる夏-秋にかけてやや改善するものの、全体として20ng/mlの最低レベルに達している赤ちゃんはほとんどいないことがわかります。
Q5.ビタミンD不足なんて聞いたことがないし、ここの先生が騒いでいるだけなのでは?
違います。
ビタミンD不足の最も怖いところは「症状として外から見えない」ことです。骨が曲がってしまったような場合はすぐわかりますが、「うちの子はカゼにかかりやすいな」「食物アレルギーになってしまった」などビタミンD不足によって起こっていることを知らなければ、原因不明のまま終わります。
母乳栄養児のビタミンD不足は海外では常識です。米国・ヨーロッパともに「赤ちゃんが生まれたらすぐにビタミンDを一日400単位の補充を!」と指導され、ヨーロッパでは9割の赤ちゃんがビタミンDを補充しています。街角のスーパーの棚にはいろんなメーカーのビタミンDサプリメントが大量に売られているそうです。「知らないのは日本だけ」なのです。
Q6.母乳をやめてミルクにすればいいの?
違います。
ビタミンD不足は母乳のごく小さな欠点なのです。母乳には人工乳が逆立ちしても勝てない利点が多くあります。母乳の欠点はサプリメントで補えばいいだけのことです。
Q7.ビタミンDの治療は?
当院では、母乳・混合栄養を行っている赤ちゃんは、少なくとも1歳になるまではビタミンDを一日400単位(ベビーDとして一日2滴)の補充をお勧めしています。
メーカーの箱の説明文では一日1滴(=200単位)と書かれていますが、上の図のように200単位では不足が解消されない子がかなりいます。400単位で多くの子が最も望ましいとされる30 ng/ml前後に達します。
ビタミンD過剰は一般に一日1600単位(お勧めしている量の4倍)を数カ月続けた場合にはありえますが、通常の使用量でビタミンD過剰が起こることはありません。
Q8.混合栄養ですが・・。ミルクも一日500ml飲んでいます。
人工乳1000ml中には一般にビタミンD400単位が含まれています。必要なビタミンD量を一日400単位とすると、人工乳500mlをとると半分の200単位がとれることになります。ですから、人工乳500mlを飲んでいる混合栄養の赤ちゃんは一日200単位(ベビーDとして1滴)補充すればいいでしょう。
Q9.1歳過ぎてもビタミンDの補充は必要?
これまでの報告データでは、1才を過ぎればビタミンD不足は自然に解消することが示されています。1才を過ぎると外遊びの機会が増えて、子ども自身が日光を浴びるようになるためと思われます。
しかし、最近子どもにも日焼け止めを塗ることが勧められてきています。海外(特に白人)では日焼けと皮膚がんの関連が示されていて、人種によっては日光浴は有害です。しかし、黄色人種である日本人では日光浴で皮膚がんが多発することは示されていません。厳密に考えるのであれば、日焼け止めを塗ってベビーDを飲み続ける方法もありますが、日本人にはやや過剰反応のように思います。