予防注射の痛みを減らす

最近はワクチンの種類も数も多くなり、小児科の外来業務に占めるワクチン接種は飛躍的に増えました。子どもをワクチン接種に連れてこられるお母さん方でちょっと気になることもあります。一つはワクチン接種することを隠して連れて来るもの。この場合、子どもはだまされたと思い接種直前に大暴れします。また、接種中に「じっとしてれば痛くないよ」「もう終わってるよ」「大丈夫だよ」と励ます(?)もの。実際にはワクチンは注射ですから、子どもによって感じ方の違いはあるものの多少の痛みは避けられません。これも子どもにウソをついている結果となり、その後のワクチン接種にいい影響を与えません。お母さん方がなぜ、このような行動を取るか?多分、自分自身の痛いワクチンを接種された経験でワクチンが痛いものと思い込んでいるからでしょう。

ワクチン接種は痛いのか?・・痛いです。皮膚に針を刺すわけですからあたり前です。しかし、その痛みを軽くする方法はあります。この方法でやればワクチンの種類と接種される子どもの感じ方にもよりますが、多くの人でワクチン接種の痛みをほぼ感じなくなります。

と、このように書いてくると最近のマユツバ的な方法に感じられるかもしれません。これは、最近の医学の主流であるEBM(エビデンスに基づく医療)できちんと証明されている方法です。詳細は外来小児科誌に書いておきましたので、医療関係の方は論文を参照して下さい。ここではごく一般向けに一部を紹介します。

<痛みを感じやすい子どもたち>

ワクチンの痛みは「年齢の低い子」「女の子」、「痛みに対する不安の強いもの」、「ワクチン種・・インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチン、子宮頸がんワクチン、二種混合ワクチン」で強く感じます。女の子が痛みを感じやすいことは他の報告でも明らかで、片頭痛、繊維筋痛症候群などの慢性疼痛疾患は女性に多く、疼痛を与える実験でも女性は痛みを感じやすいことが報告されています。最も痛みを感じやすいものは接種に対する不安が強い子で、接種前に泣き叫んでいる子は接種後にも泣きながら帰ります。個人的な問題もあるのかもしれませんが、医療的な痛みの体験が繰り返されたものかもしれません。

<ワクチン接種時の痛みを減らす>

一般的な方法は、穿刺後の試験吸引をしないこと、最も疼痛の強いワクチンを最後に接種する、穿刺針の違いに関わるものがあります。注射の際には一般的に針が血管の中に入っていないことを確認するために試験吸引して血液が逆流してこないことを見ますが、一般的なワクチン接種部位には主要な血管が走ってはいません。ですから、試験吸引する意味がないばかりか針が動揺して無用な痛みを与えます。

最近は多種類のワクチンを同時接種することも多くなりました。4-5種類ワクチン接種も当たり前になっています。痛みは徐々に強く感じるようになりますから、最初に痛いワクチンを打ってしまうと、次からの本来痛みの少ないワクチンであっても強く痛みを感じることになります。針は細く穿刺抵抗の少ないものが良いのですが、論文データに示されている31ゲージ針は針だけで一本3000円くらいしますので、現実的ではありません。当院では26ゲージ針を用いています。

以下の方法は年齢によってアプローチが異なります。

① 接種部位の圧迫tactile stimulation

転んで何かにぶつけた時にどうするでしょうか?多くの人は「痛っ!」といいながらぶつけたところをさすります。さすることで痛みがコントロールできることを経験的に知っているのです。Melzackらはこのメカニズムとして痛みを伝える脊髄には痛み信号の流入をコントロールするゲート機能があることを推測しています。単に痛み刺激だけが与えられたときには、刺激はそのまま脳に「痛み」として伝達されます。しかし、あらかじめ圧迫刺激が与えられているとこの信号が先に入り、引き続く痛み信号がブロックされ脳に伝わりにくくなります(Gate control theory)。

 

これを応用して、ワクチン接種直前に短時間の弱い圧迫を加えて痛みを減らす試みを行

いました。痛みが強いことで知られる子宮頸がんワクチン接種の際にこの方法を行ったところ、用いなかった場合に比べて約20%痛みが減ることが示され、有効性が確認できました(冨本 和彦.予防接種中の疼痛軽減のために―第2報 接種手技の検討―外来小児科2013;16:2-11)。

ほかのより痛みの少ないワクチンではさらに有効です。この方法は実は海外では比較的知られており、「Shot blocker」「Buzzy」などの疼痛低減目的の製品が販売されてもいます。

② 薬物による方法

接種部位局所に用いるものとして局所麻酔剤(リドカインクリーム、ペンレステープ)と瞬間冷却スプレー(Vapocoolant) があります。飲み薬としてのアセトアミノフェン、イブプロフェンなどの解熱鎮痛薬は効果がありません。いずれも有効性が示されていますが、現在、当院では他の方法で十分な効果があることから採用していません。

③ 接種前に糖水(ショ糖、ブドウ糖)、母乳を飲ませる

ショ糖については濃度20~33%、ブドウ糖は濃度25~50%のものを接種2-3分前に内服させます。甘いものを摂取することで内因性オピオイドが分泌され、有効と言われています。乳児早期にはロタワクチンを同時に接種することも多いのですが、ショ糖濃度はロタテックで54%,ロタリックスで71%と濃く、実際にロタリックスを注射ワクチン接種前に投与してワクチン関連疼痛を低減した報告もあります。

母乳の痛みを減らす作用は多岐にわたっています。母親に抱かれていることでの皮膚接触を通じた安心感、母乳を吸うことによるdistraction、母乳中の乳糖を甘く感じて内因性オピオイドが分泌されることが関与すると考えられています。

④ 気をそらすdistraction

「三国志演義」の中に関羽将軍が戦いの最中に毒矢を受け、救命目的に名医華佗から無麻酔で骨を削る処置を施されたエピソードが伝えられています。この際、関羽は部下と囲碁を打ちながら手術にのぞみ、無事終了したといいいます。「心頭滅却すれば火もまた涼し」と言われたように、楽しいことや好きなことに熱中することで痛みを減らすことができます。その子の年齢にあった方法が大事ですが、「ビデオを見せる」、「おもちゃで遊ばせる」いずれも有効性が確認されています。当院ではワクチン接種中に風車を吹かせる方法を採用しています。風車はデータでも有効性が確認されているのですが、残念ながら子どもによってはワクチン接種の方がずっと気になるためか、一生懸命に吹いてくれないといった問題点もあります。この方法はVRゴーグルなど子どもがそちらに集中してしまうような機材を用いれば、もう少し効果が出るように思います。

その他注射方法で経験上有効と考えられるものもありますが、これらはまだ検証段階ですので、HPには公開しません。興味のある方は論文(外来小児科)を参照して下さい。

【接種後失神をきたしやすい子への対応】

注射恐怖のある子では接種した後にめまいや失神をきたすことがあります。これは「神経調節性失神」によるもので心配はいりませんが、周りで付き添っている方はびっくりします。これはワクチン接種の恐怖から血圧が一旦グーッと上がったあとに急に脈が遅くなり血圧が下がって失神します。この予防には接種前にあらかじめ腹筋や手足の筋肉に力を入れて緊張させておく方法が有効です。多くの場合は失神の前にめまいや冷や汗、気分が悪くなるなどの前兆がみられるので、これをとらえて対処します。

以上エビデンスに基づく痛みの軽減方法について述べました。しかし、最も重要なことは、保護者が前日までに子どもに対して①ワクチン接種のために病院へ行くことを伝え、②痛みを減らす方法があり、ちゃんと協力すればあまり痛くなく終わることができることについて充分な説明をしておくことです。

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